現代陶芸 陶芸家 毛塚友梨 Yuri Kezukaのブログです
現代陶芸 陶芸家の毛塚友梨のブログです。ようこそ、おいで下さいました。
これから、少しずつ自分が今まで作った作品について紹介をしていこうと思います。
今更ではありますが、Instagramのアカウントを作り、
そちらでも陶芸 作品や制作過程の写真を紹介しています。
良かったらご覧になってみてください!(^^)
卒業制作 作品「8年間」の紹介
今回は「8年間」という陶芸 作品についての紹介をしたいと思います。
この作品は私が初めて作った器以外の陶器の作品で、東京藝術大学の卒業制作です。
『8年間』
陶器、 1240℃ 酸化焼成、2009年
W1750×H1100×D3400(mm)
8years
stoneware 1240℃ OF, 2009
【制作コンセプト】
「なんで陶器で自転車なのか、、、しかもなんでこんなに大きいのか。」
それには色々理由があります。
①前回のブログで書いたように「不思議で面白い作品をつくりたい」と思っていたから。
②器以外の作品で、コンセプトがある陶器の作品を作りたかった。
③大学の入試に模刻という、物を本物そっくりに作る試験があったので、その技術をいかしたかった。
折角、大学入るために2浪もさせてもらってその技術を習得したので、それを使わなければ勿体ないと思った。
④大学最後の制作だったので、できる限り大きい作品に挑戦してみたかった。
3年生後半の器を作る授業で、やっぱり自分がやりたいのは器作りじゃないと気付いてから、
何を作ろうか考えていたのですが、最終的に、自分が愛用していた自転車を陶器で作る事に決めました。
その自転車は、「おじいちゃん」と私は呼んでいたんですが、当時は、8年乗っていたんですね。
だから題名が「8年間」なんです。
高校のステッカーとか駐輪場のステッカーがべたべた貼られてて、なかなか格好良かった。
今まで4回くらい盗まれているんですが、必ず私のところに戻ってきてくれるんです。
なんだか縁を感じています。
最終的には高校1年生~29才で13年くらい乗りました。
今は乗ってはいませんが、物置に保管してありまます。
ちなみに、この作品の前にも2年生の時に同じ自転車を作っています。
この時は陶器ではなくて鋳造で作ったのですが「5年間」というタイトルです。
卒業制作をまとめたポートフォリオにはこのように書かれています。
「私は、この作品で自転車に乗っていた8年間の感情、記憶を表現した。
私がこの自転車を買ったのは高校入学時である。
特に高校入学からの8年間はとても充実した期間だっので、
その期間の記憶をを振り返り、陶器で自転車を置き換えるという計画を立てた。
自転車の陰には私が乗っており、過去と、未来の時間の中を走っている。
大学卒業にあたって、ひとつの節目を迎える時点での私の心情も表している。
私は「8年間」を作る以前に「5年間」という作品を作ったが、
これも同じ自転車をモデルに作った作品である。」ポートフォリオより抜粋
【卒業制作ミーティング】
卒業制作を作る過程で、教授、講師の先生方と月に1度打ち合わせをするのですが、
最初の打ち合わせでは自転車はNGだったのですね。
「陶器で自転車は作れないでしょ」って判断されたわけです。
先輩にも「自分の力量をわきまえて物を選べ」と言われ、散々な反応。。。
でも、私は生来1つのことにこだわりだすと、大変しつこい性格ですので、
とりあえず、陶芸家の父に相談してみたのです。
そしたら、父はしばらく考えてから
「出来るんじゃない?」
と返事をしました。
それが自信になりまして、なんだかできる気になってきました。
それから、教授陣を納得させるための準備を始めたのです。
そして、下のような大まかな設計図とデザインアイデアを制作して、先生達の説得をしようと試みたのです。
結果、作戦成功。
「とりあえずやってみれば」と言ってもらえました。
卒業制作をまとめたポートフォリオにはこのように書かれています。
「陶器で自転車をつくるためには複雑な形態を正確につくる必要があった。
そのためには計画段階がとても大切で、何枚も図面を製作しなければならなかった。
粘土は乾燥と焼成で収縮するので、あらかじめ決めた粘土の収縮率を計り、
成形時の大きさを厳密に計算して制作した。」ポートフォリオより抜粋
この文章読んで思い出しました。
粘土は収縮するので、そのことも考慮に入れて区切る位置を決めたり、パーツの寸法を決める必要があったんです。
この陶芸 作品は、パーツ同士が組み合わさるようになっているのですが、
制作途中でゆがんでしまったら合わなくなってしまうので、
歪んだりしないように気を使っていたと思います。
【卒業制作開始】
6月、少し早いタイミングではありますが、卒業制作を開始。
物も大きいため、早めに始めた方がいくらか安心です。
まず最初に始めたのは釉薬のテストです。自転車に合う色の釉薬を作りました。
この頃、今の主人と結婚をしておりまして、主人が中東出身(イラン)だったので、そちらで有名な陶器によく使われている
水色の釉薬+黒化粧の掻き落としに興味を持っていました。
水色というのは一般に「トルコブルー」と言われている色ですね。
イラン人に言わせると「ペルジャンブルー」だそうです。
陶芸を学んだ人はよくご存じだと思いますが、このような水色は発色剤に銅を使っています。
銅は、酸化焼成という酸素を多く燃焼させて完全燃焼をさせる焼き方で焼くと水色に発色します。
実は、私が作る釉薬は銅釉が多いです。
なぜなら、私が生まれた時から大好きな色は水色だからです。
もう、水色にするしかありません。
上の写真の輪っかみたいのが、テストピースです。
全部で50種類くらいのテストを作ったのですが、
その中から一番気に入ったマットな水色の釉薬を使いました。
黒い部分には黒化粧がかかっています。
黒化粧というのは、白い素地の上に黒い泥をコーティングしてあります。
上記の「黒化粧の掻き落とし」というのは、上からコーティングしてある黒化粧を
引っ掻いて白い素地を見せることによって模様を施す技法です。
私の作品は大きすぎて掻き落としで模様を作るのは無理だと判断しましたが、
黒化粧と白い素地の色を使って模様を施すことに決めました。
卒業制作をまとめたポートフォリオにはこのように書かれています。
「なぜ水色の釉薬を調合したかというと、当時ペルシャ陶器に興味があり
水色が私の一番好きな色であったためである。
素地に黒化粧で模様をつけているが、これもペルシャ陶器からの影響である。
粘土は作品の大きさを考慮に入れて、粗目の粘土を使用することに決めた。」ポートフォリオから抜粋
「粘土は作品の大きさを考慮に入れて、粗目の粘土を使用することに決めた。」
これは、説明不足なので捕捉します。
陶器は作品が大きいと、乾燥や焼成で収縮するときにひびが入りやすいです。
己の重さで接地面が下の板に引っかかってしまって縮めないのですね。
特に粒子の細かい粘土で作ってしまうと、粘土の粒子同士の隙間が少ないので、
引っ張られる力とか縮むときの力にあまり融通が利かないです。
その結果、パカっと亀裂がはいります。
ですので、それを少しでも緩和するために粒子の粗い粘土を使ったという事なのです。
【作品本体の制作開始】
上の写真の様な模型をつくりました。
作品がとても大きいので、全体の形を常に意識していました。
全体に気を配らずに、後で大きな間違いをして後戻りする時間の余裕がなかった為です。デッサンと同じですね。
後ろで10年前の私がカップ麺食べてます。
いよいよ自転車づくりです。タイヤとハンドルですね。
写真で見て頂いて分かる通り、途中で切れ目があります。
自転車を立たせるために、タイヤの中身に細工をする必要があるため、タイヤの下部が蓋物みたいに作ってあります。
ハンドルは、焼成後左右をつなぎ合わせる予定です。
自転車のフレーム部分の制作過程です。左の写真では、タイヤは1部しかありません。
なぜかというと窯の大きさに限りがあるので、すべてを一緒に焼けるわけではないし、
他パーツとの組み立方を考えた結果、このような区切り方ではないと作れなかったからなんです。
本当に、プラモデルとか、立体パズルに近い。
右の写真は、タイヤすべてのパーツと一緒に置いた写真です。
上の写真は自転車のかごを作っているところなんですが、
粘土の薄い板を作って穴をあけてかごの質感に近づけようかと思いました。
かごの形を作るのには、新聞で作った型の上に穴をあけた粘土の板を巻き付けました。
硬い物を型に使うと、粘土が収縮するときにかごが割れてしまうので。
中の新聞の型は、粘土が少し固まって形が変わらないくらいになったら出します。
こちらは自転車の影の部分のパーツです。
最初に、全部つながった状態で影を作りました。
自転車の土台が入るように中が空洞になっているところがあります。
そして、乾く前にすぐに分割。
そのまま乾かすと、急乾燥過ぎて亀裂が入ったり歪んだりしますので、
上から大きなビニールで密封して、新聞紙に水分を吸わせる方法で乾燥させました。
新聞紙を大量に影の上に敷き詰めて、毎日新聞紙を乾いたものと交換します。
初めての大きい陶芸 作品だったので、やっぱりパーツの何個かは割れてしまいましたが。
その後の工程は、
素焼き(750℃)
300℃までが一番割れやすいので、ゆっくり温度を上げて焼きました。
↓
化粧掛け
黒い泥で模様を付けました。
泥をつけたくない部分は撥水剤という、水をはじく薬を塗ります。
そうすると、泥が付いたところ、付いていないところで模様ができます。
↓
施釉
作品が大きくて、浸して釉薬をかけることができなかったので、
柄杓(ひしゃく)を使ってかけました。
↓
本焼き(1220℃)
温度を上げてしまうと透明釉に近くなってしまうため、温度低めです。
となりますが、制作したのが10年も前のため写真が見つかりませんでした。
そして、左の写真が焼きあがった作品の写真です。
全部バラバラですので、これからパーツを接着します。
右の写真は接着中の写真です。
「部品を接着し、タイヤ下部と影の内側に鉄の部品を埋め込む。
それらが組み合わさって自転車が自立することができる。」ポートフォリオより抜粋
自立させるための金属パーツは、タイヤの下の方に見える黒いでっぱりです。
影と自転車が接続する部分の金属パーツを見えないように作っているので見えにくいのですが、
自転車と影部分のパーツの中には自立させるための金属のジョイントパーツが入っています。
これは、作品が焼きあがってから、鍛金専攻の友人に手作りしてもらいました!
しっかりとした作りにしてもらったので、自転車本体がふらつくことはほぼありません。
残念ながら、金属パーツのみの写真は見つかりませんでした。
上の写真は接着の最終段階、かごを接着しているところです。
作品を移動させたり、保管するためにパーツはある程度の単位でバラバラにできるように接着しました。
「部品は取り外し可能である。全部で約70パーツに分かれ、手で運べる大きさになる。」
ポートフォリオより抜粋
だそうですよ。パーツ、とても多かったようです。
そしてついに完成!
完成まで7か月かかりましたが、出来上がった時は大きな達成感を得ました。
今でも、ここまで大きな陶芸 作品はこれ以来作っていません。
近い将来、陶器の自転車をもう一度作ってみたいなと思っています。
そして、これは卒業制作展の直前に行われた陶芸 専攻の講評会です。
この作品の完成後、このようにまとめています。
計画的に制作を進めたので、比較的短期間で作品を完成することができた。
粘土の板からつくる方法や、いくつもの部品を組み立てるという方法も
これからの制作で使うことができるだろう。
だが一方で、作ることに集中しすぎて構成について再考する余裕を持てなかったことが反省点だ。
例えば、影の表現をもう少し抽象的に、省略して表現することも可能だったと思う。
今回の作品では少し具象的表現と、抽象的表現を混同してどちらとも言えない作品になってしまった。
粘土で実際のものを作るためには、形をデフォルメし素材に合った形態をつくらなければならない。
けれども、つくったモチーフからも著しく離れてはいけない。
モチーフから作品が離れすぎればそこから人の感情と記憶を呼び起こすことができない。
そうでなければ、私の制作のコンセプトである、
「感情と記憶を残す」
ということができないからである。
次の作品からは私の制作コンセプトに最適の表現方法をよく選び制作することを心がけたいと思う。ポートフォリオより抜粋
そして、この作品の後、少し、自分の現代陶芸 作品の方向性に悩んでから陶器で
「シャワー」や「蛇口とバケツ」
などの作品を作り始めました。
【物事に取り組む時の姿勢】
私が制作や仕事のをするときに、浪人時代から心に誓っていることがあります。
「攻めの姿勢」を維持することです。
この考えは、予備校の時の関井先生の教えなのですが、ずっと私の心の支えとなっています。
「どうしようかなあ。」と悩んだときや、尻込みしてしまいそうな時は
その気持ちを振り払って、なるべくベストに近い道を突き進むことにしています。
たまにそれをやりすぎて体の限界を超えてしまうのですが、
体が壊れない程度にできる限りのことをしようと思っています。
まずはやってみる、続けてみる、そんな風に色んなことに取り組んでいきたいです。
長文を最後まで読んでいただいてありがとうございました。